東京高等裁判所 平成元年(ネ)1065号 判決
控訴人
トーヨー画彩株式会社
右代表者代表取締役
加藤由太郎
右訴訟代理人弁護士
山下洋一郎
松本新太郎
控訴人補助参加人
あづま富士圧延株式会社
右代表者代表取締役
川口笑子
右訴訟代理人弁護士
大辻正寛
被控訴人
有限会社パラダイム計画
右代表者代表取締役
徳永健一
右訴訟代理人弁護士
泉信吾
藤川元
主文
原判決中控訴人敗訴の部分を取り消す。
被控訴人の請求を棄却する。
訴訟費用は一、二審を通じて被控訴人の負担とする。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 控訴人
主文同旨
二 被控訴人
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
第二 当事者の主張
当事者双方の主張は、原判決三枚目表四行目から五行目にかけての「受けなかったから、一〇二号室及び一〇三号室にはそれに対応する敷地持分がない。」を「受けなかった。」に改め、同四枚目表五行目の「1ないし4」の次に「のうち一〇二号室及び一〇三号室に対応する敷地持ち分があることは否認し、その余」を加え、同裏五行目及び同五枚目裏七行目の「に対応する敷地持ち分として」をそれぞれ「と同時に」に改め、当審において、被控訴人が、「区分所有法の改正により、区分所有建物における敷地の共有持分については、民法における共有の一般原則のみが妥当するものではなくなった。すなわち、同法二二条二項によれば、一人が数個の専有部分を所有している場合には、その有する敷地利用権の各専有部分に対応する割合が明らかにされることにより、専有部分と敷地部分との結びつきが明確であることが必要とされている。このような法律関係は、民法の共有の性質からは著しく異なったものであり、このことを念頭におくと、控訴人の敷地利用権に関する法律上の主張は失当である。」と主張したほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。
第三 証拠〈省略〉
理由
一控訴人は、本件マンションの専有部分である一〇二号室及び一〇三号室を所有して占有し、被控訴人は、一〇四号室及び本件マンションの敷地である本件土地の持分二一万七一三八分の一万五一一五(本件持分)を有していること、被控訴人は、昭和六二年一二月一二日、控訴人に対し、区分所有法第一〇条に基づき一〇二号室及び一〇三号室の売渡しを請求したこと並びに控訴人が本件土地について二一万七一三八分の五〇七六の敷地持分(控訴人持分)を二〇三号室と同時に取得してこれを有していることは、当事老間に争いがない。そして、〈証拠〉によれば、控訴人は、同年三月二五日控訴人持分及び二〇三号室を取得し、同月二七日その登記を経由したことが認められる。
ところで、被控訴人の本訴請求は、区分所有法一〇条に基づくものであるから、これが認められるには、控訴人が一〇二号室及び一〇三号室につき敷地利用権を有しない区分所有者であること並びに被控訴人が右各専有部分の収去を請求する権利を有することがそれぞれ必要である。
そこで、検討するに、右争いがない事実及び右認定事実によれば、控訴人は、被控訴人による右売渡し請求がされた当時本件土地について控訴人持分を有していたのであるから、控訴人は、二〇三号室についてはもちろん、一〇二号室及び一〇三号室についても敷地利用権を有しない区分所有者に該当しないものというべきである。もっとも、前述のように、控訴人は、二〇三号室とともに控訴人持分を取得したのであって、一〇二号室及び一〇三号室を取得した際には本件土地に関する利用権は何も取得しなかったけれども、このような場合に、控訴人が一〇二号室及び一〇三号室について区分所有法一〇条にいう敷地利用権を有しない区分所有者に該当するものと解すべきではなく、控訴人は、二〇三号室、一〇二号室及び一〇三号室の三つの専有部分を有するとともに、それらについての敷地利用権として控訴人持分を有するものと解するのが相当である。もともと、敷地利用権を有しない区分所有者は、本来その有する専有部分の収去を免れないものであるが、特定の専有部分のみの収去が物理的に不可能であることから、同法一〇条により、いわばこれに代わる措置として、明渡請求権者は、当該専有部分の売渡しを請求することができることとされたものと考えられる。そうとすれば、いやしくも敷地利用権を有する以上、区分所有者は、その敷地利用権を取得した経緯、もともとその敷地利用権が当該専有部分に係るものとして分離処分が禁止されるものであったかどうか、敷地利用権である共有持分の持分割合の多寡等の事情に係わらず、その専有部分を保持するための土地の利用権を有するものというべきであるから、その専有部分は、売渡請求の対象とされる余地がないものと解すべきである。本件においては、控訴人持分が一〇二号室及び一〇三号室についての敷地利用権でもあるのであって、控訴人は、これらの専有部分につき売渡請求を受けるものではないというべきである。
被控訴人は、控訴人が一〇二号室及び一〇三号室につき敷地利用権を有するかどうかに関して、区分所有法二二条二項の新設により専有部分と敷地持分との結びつきが明らかになったことなどによって、区分所有建物における敷地の共有関係については、民法における共有の一般原則が修正を受けたことを考慮すべきであると主張する。
たしかに、昭和五八年の同法の改正により、区分所有者は、専有部分とその専有部分に係る敷地利用権とを分離して処分することができないものとされ(同法二二条一項本文)、区分所有者が数個の専有部分を有する場合において、その各専有部分に係る敷地利用権の割合についての基準が定められた(同条二項)こと等により、区分所有建物に関して、共有に関する民法の一般原則が若干の修正を受けたものということができるが、それらの点が専有部分の売渡請求に関する前記判断に格別の影響を及ぼすものと解することはできない。
二以上によれば、被控訴人の本訴請求は失当としてこれを棄却すべきであり、これと結論の一部異なる原判決は一部不当であって、本件控訴は理由がある。
よって、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官橘勝治 裁判官安達敬 裁判官鈴木敏之)